韓国語も話せないままソウルでコロナにかかった話

簡単な自己紹介:

交換留学で1学期間だけソウルの大学に留学しにきた大学院生で、韓国語学習についてはK-POPにハマっていた高校生のときから先延ばしにし続けているうちに今に至る。店員さんや窓口の方々にたびたび迷惑をかけながらなんとか暮らしている。

 

本題:

ある意味でなかなかない体験をしたと思うので、気を紛らわせるために書いた文章を公開しておく。韓国で来月には感染後の隔離義務が撤廃されるというニュースを先日見たけども、撤廃後はコロナ対策チームの方々が人間らしい生活に戻れそうで何より。

極めて非社交的な生活を送っていた私がまんまと感染してしまったのはめちゃくちゃコロナが流行っているタイミングで、入国時の隔離から2週間でまた隔離生活に逆戻り、というかむしろソウル生活最初の1ヶ月の半分を隔離して過ごしたと言った方が正しい。悲しい。

以下、愚痴が大いに含まれているものの、コロナ禍でも留学生を受け入れ続けてくれていること、入国後すぐ3回目のワクチンを打たせてもらったこと、隔離中に英語対応してもらったことなど全体的には非常に感謝していることを前置きしておく。

1日目:

起きたら喉に違和感を感じるも、その日はちょうどいつもオンドルの温度を41度に設定しているルームメイトが夜中に全ての暖房を切ったせいで寒くて目が覚めたという衝撃的な朝を迎えていたのでふつうに風邪を引いたと思った。

2日目:

喉の痛みがさらに悪化して声が明らかに変になる、咳も出る、鼻水も出る。まだ保険に入っていないので病院に行くのを尻込みする。友達にそれコロナの症状に似てるね、と言われて少し心配になる。

3日目:

症状は2日目と同様。無保険で耳鼻科を受診した日本人の方のブログを読んで、鼻風邪に1万円は惜しいなとか、お尻に注射を打たれるのは結構嫌だなとか思って日和る。

市販薬を買いにキャンパスの外に出て、事前に調べた韓国語も使いながら症状を説明したら英語で「鼻風邪の薬はいま全部売り切れです」と言われる(そんなことある?)。キャンパスの中にも薬局があることを教えてもらって行くと、英語のできる方もいて在庫もばっちり揃っていて4種類買っても1200円くらいで感動するも、帰って箱を開けたらどれも3日分くらいしか入っていなくて納得する。

この時点でコロナにかかったとは思っていなかったけど、念のため人との接触を自重していたのをやめたくて校内でやっている迅速抗体検査を受ける。陽性を知らせるSMSが来たのは夜の8時くらいだったけど、24時間つながる大学のコロナ対策チームの番号があるということでそこにかけてみると、

・明日受けてもらうPCRの結果が明後日に出るので、それで陽性が再び出ればその時点で隔離の義務が生じる(それまでは外を出歩ける)

・それまで一時的に収容されるはずの大学内の施設も、保健所が運営する正式な隔離施設も、両方空きがないのでAirbnbで自分で隔離先を手配した方がいい

Airbnb等を使った自己隔離の場合、代金のいくらかが政府から補償される

・今日は部屋に戻って過ごしてとりあえず明日PCRを受けに行くように

・もしルームメイトも陽性だったらそのまま寮の部屋で一緒に隔離してもらう可能性がある

と言われ、特に2,4,5点目に驚きながらも言われた通りにする。

Airbnbを探しつつも、①陽性の人間を受け入れてくれるところがほとんどないこと、②机や洗濯機、シャワー完備で綺麗な物件は結構高くて1万円/日くらいする(ホテルも含め東京よりソウルの方が相場が高いように思う)こと、③韓国語の電話に一人では対応できないのに三食自分で手配しなければならないことへの不安に苛まれながら眠る。

4日目:

起きたときには陽性の人間を受け入れてくれる物件にはすでに予約が入り、宿泊可否の問い合わせをしていた物件のオーナーからは軒並み断りの返事が入っていた。

濃厚接触者に該当すると思われる人たちに学校で抗体検査を受けてもらったらみんな陰性で安心する。ルームメイトも陰性だったので、今晩同じ部屋で過ごすのに抵抗があると伝えられ(それはそう)、大学のコロナ対策チームや他の関連窓口に電話するも、やっぱり大学内の一時的な隔離施設には空きがないので無理だと言われる。昨日感染を報告していた、留学プログラムのコーディネーター的な方に少し誇張して「ルームメイトは陰性だったので私と今晩同じ部屋で寝るのはすごくuncomfortableだと言われて困ってます!」と泣きつくと、今日中に入れるようにアレンジしましたと言われる。空きあるんかい(よかった)。

受け入れ先の施設の担当者に電話したところ、18時くらいに電話するのでそれまでに荷造りをするよう言われる。その後の対応について聞くと、保健所が運営している隔離施設に無料で入ることになること、Airbnbを選んだ場合に政府から補償されるか否かは定かではないことを伝えられる。昨日言われたことほとんど嘘だったの何?

18時30分になっても電話が来なかったのでかけ直すとつながらず、コロナ対策チーム等にかけてみると「あなたの名前は名簿に載っていないし、空きは本当にないので今日は入ることができない。あなたを応対した人間の英語が不自由で勘違いしたのではないか」と言われる。ちなみに、人によって言うことが全然違うのに大学のコロナ関連窓口ではいつも誰も名乗らず、かつ違う関連窓口の番号にかけても同じ人が出たりするので向こうには認知されているのにこちらは誰と話しているのか全くわからない。

そこから10分くらいで受け入れ先の施設から電話がかかってきて、いま準備をしているのでもう少し待つように言われて心の底から安心する。学内の一時的な隔離施設には寝具もないので持ってくるようにと言われ、シーツ・枕・かけ布団を持っていく。この臨時隔離施設に転用されているのが部屋が非常に広くてキッチンまで完備されている、いわゆる当たりの寮だと聞いて心躍らせる。

ようやく施設に着くも、廊下にマットレスが立てかけられている異様な光景に驚く。部屋に入るとマットレスがなく、案内してくれた方にマットレスは使えないのか尋ねると首を振られる。たしかに全体的に広いのだけれど、洗面台兼トイレ兼シャワー(広いので兼用であることに文句はない)のスペースにてんとう虫が4,5匹うようよしている。大きな冷蔵庫はあるのに電子レンジと電子ケトルがない。

23時過ぎに電話がかかってきて、コロナ対策チームのおじさんになぜか謝られる。いつの間にか私がおじさんを慰めながら20分くらい韓国語まじりの愚痴を聞く流れになる。昨日大学内でパンデミック発生以降最大となる70人以上の陽性者が出てリソースが完全に圧迫されていること、そのためこの施設では1人部屋であったところに2人入れる方針となったこと、3,4人同じ部屋に入れようという意見が優勢だったが自分が大反対して2人に押し留めたこと、1ヶ月なら持ち堪えられるがこれがもっと続くと精神的に限界が来ることなど。終盤に私はいま部屋で1人で過ごしていると伝えると謝り損だったのではないかという空気が若干流れる。

PCR検査に関して、午前中の少し遅めの時間に区のコミュニティヘルスセンターに行ったら番号札を渡され、14時に出直すよう言われる。すでに抗体検査で陽性が出ていることを示すSMSを見せてもめちゃくちゃ無反応で驚く。特に理由は言われなかったのでお昼休憩に重なるから帰されたのかと思いきや、再訪したときに声をかけた係の人に、この区の保健所のウェブサイトであなたの番号になったら来てくださいね、あと200番くらいあるので今から1時間くらい外で待ってもらうことになります、と教えてもらう。この待ちぼうけは絶対韓国語ができれば防げたやつだなと思いながら寒空の下待つ。回転はめちゃくちゃ早くて200番も空いていたのに40分強で順番が回ってくる、すごい。

5日目:

床で眠り、起きたらすでに身体がバキバキ。当然PCRでも陽性だったので大学のコロナ対策チームに報告すると、今日は休日なので保健所が動かず、隔離施設への移動は明日になるかもしれないと言われる。つらい。

正式な隔離期間が始まったのに、この施設はあくまでも一時的なもので食事の提供等はないが、キャンパス内のコンビニまで出歩いて構わないと言われる。気分がかなり落ち込んでいたのと、できるだけ人との接触は抑えたかったのとでルームメイトたちに頼んで出前をとってもらう(韓国のほとんどのサイトではオンラインでの買い物に海外で発行されたクレジットカードを利用できず、取得に6週間かかる外国人登録が済むまでオンラインでの行動が結構な制約を受ける)。

夕方に陽性の女の子がもう一人部屋に加わる。夜に保健所と電話した際、担当者の方が英語が話せないとのことだったのでこの子が通訳してくれた。ありがたい。翌日移送できるのでその際にまた電話すると伝えられる。このときは着信に気づかず後からかけ直したのだけれど、驚くほどつながらないので2度と着信をとり逃さないことを誓う。

21時くらいにとってもらったデリバリーが最低注文料金との兼ね合いから少し多かったので、同室の子に少し食べるか聞き、一緒に食べる。まだ学部2年生らしく、韓国社会について気になっていたことを質問したりして私としては楽しく過ごさせてもらったのだけれど、どうやら食事中トイレに行くのを我慢していたらしいことと、無理してたくさん食べたのか食後かなり苦しそうにしていたことの2点から、韓国ではこんなにわかりやすく年長者と年少者の間に権力構造が発生するのか……と反省してその後は最小限の会話のみで済ませる。

6日目:

起きてからずっと携帯電話を握りしめて過ごすも、待てと暮らせど電話は来ず、夕方にこちらからかけると「あなたの手続きはまだ何一つ進んでいないので明日になります」と言われる。ずっと硬い椅子に座るか硬い床に寝転ぶかのどちらかで、急に同室の子がいる前でラジオ体操ができるほど強心臓の持ち主でもないので身体と精神が結構限界に近づいており、本当に落ち込む。

そこで現実逃避に最近流行っていた韓国のゾンビドラマ「今、私たちの学校は…」をNetflixで一気見すると、現実の方が何百倍もマシなのでかなり気が晴れる。私が感染したのがゾンビになるウイルスじゃなくてオミクロン株でよかった。

7日目:

昼前に移送を告げる電話が来る。う、うれし〜〜〜〜〜〜〜〜

深夜に電話したおじさんが運転する車で行くことになり、ありえない大荷物だったところから枕とかけ布団を預かってくれることになる。

入国時の隔離で提供された韓国のお弁当が割と口に合わなくて辛かったので、保健所の方に「まだ韓国の味に慣れていないのかたまにお弁当が食べられないことがあるのですがフードデリバリーはできますか?」的な質問をしたところ(できないと回答された)、アンチキムチの外国人的な認識を持たれていたらしく、おじさんに車内で「キムチは韓国人の心なんや!」「韓食は世界中で人気なんやぞ!」と熱弁される。韓国料理は好きなんだけれどもお弁当に入ったらキムチが酸っぱくなったりして少し味変わるのが苦手なこと、どちらにしてももう隔離期間は残り半分なので問題ないことなどを主張して弁解する。

隔離施設も相部屋だと聞いて落ち込んでいたのに、いざ隔離施設に着くと外国人は一人部屋だと言われてすごく嬉しかった。廃業したホテルを隔離施設として使っているとのことで、古い建物特有の匂いとドアノブのべたつきが気になるもののかなり広い部屋で、何よりここにはセミダブルのベッドと電子ケトルがある。ちなみに24時間稼働している監視カメラもある。

支給されたのは新品のシーツや枕、タオル、辛い方のジンラーメンのカップラーメン1箱(6つ)とこれ。

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特に、ティッシュが鼻をかむことを考慮されているであろう柔らかさなのが大変ありがたかった。

ただ一点、なぜかここで提供される水の味が口に合わなくて薬剤のような味がするのが気になった。最初の一口からずっと違和感があって、いずれ慣れるかと思ったけどいつまでも慣れない。気になってペットボトルの「아리수」という印字からメーカーを調べると、ソウルの水道水が飲める品質であることをアピールするために水道局が「アリス」という名前のブランドを運営していると知る。

え、「ほんまや」やん……

news.mynavi.jp

小学3,4年生くらいのときに塾の最寄り駅の自動販売機が半分くらいこれでジャックされていたこと、みんなで「水道水なんて誰が買うねん」と笑っていたら半年以内に1本しか並ばなくなったこと、中学受験が終わるまでには完全に見なくなったことを思い出す。

「ほんまや」はお金を取る分、水道水から「活性炭に通して残留塩素を除去し、加熱殺菌(上記より引用)」していたのに「アリス」は水道水をそのまま詰めているらしく、一度沸かして飲んでも冷蔵庫で冷やして飲んでも変わらぬまずさでつらい。ある日本人の方のブログで「これでPRになるのかなって味」と形容されていて同志の存在に安心する。非売品らしいのにどうしてわざわざ隔離施設に頒布したのかは本当に謎。

後日談として、この経験のせいで飲食店で出てくる水が水道水かどうか一口で判別できるという全然欲しくなかった能力が身についてしまった。

8~10日目:

毎日10時間くらい寝た。元ホテルだけあって本当に良いベッドだった。あとこれまでは陽性とわかる前に買った3日分の市販薬をちびちび飲んでいたので、ここに来て処方薬がきちんともらえるようになったのがありがたかった。薬剤師の方は日替わりのようだが、皆さんカカオトークで英語対応してくれた。ちなみにワクチンを3回接種した20代前半の健康体であるがゆえに、床で寝かされていた割にはここに来るまでにある程度回復してしまっていて悔しかった。

7-8時の間に朝ごはん、12時くらいに昼ごはん、17-18時の間に夜ごはんをドアの前から受け取るようにという旨の放送が、そして10時、15時、19時くらいにゴミの分別を説明する長めの放送がクソデカ音量で流れるのと、びっくりするくらい食事が口に合わないのが辛かった。たった3日間だったのに1週間の隔離を見込んで持ってきたカップラーメンとふりかけとアマノフーズフリーズドライ食品を食べ尽くしてしまった。6時、13時、19時に体温と血圧と酸素濃度を測らないといけないのだけれど、朝6時に起きられず7時半くらいに送っても怒られなかった。

お弁当の写真は今の私が見返すととても美味しそうに見えるしかなり豪華だとも思う(特に3枚目)のだけれど、なぜかいざ食べるとなると私の口にはあまり合わないことが多かった。

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11日目:

最初に対応してくれた方に退去時にもキャリーケースを運ぶのを手伝ってもらった際、「ここでの生活どうだった?」と聞かれたので寮よりもベッドが快適でよく眠れた旨を伝えたところ、足を止めて振り返り「いたいならもう少しここにいることもできるけど?」と言われる。

3日間も床で寝かされてたのは保健所の業務が回ってなかっただけで、隔離施設のキャパシティには余裕があるってこと??などといろいろな考えが頭を巡るが、もう荷物を詰めていたこともあって断る。荷物を詰める前に言われていたら真面目に考えたかもしれないけど、クソデカ音量の放送とトイレ兼シャワー兼洗面台スペースの独特の臭いと防護服の人々が忙しなく動いている中を気軽に外出する勇気のなさ等により、どちらにしても断っていたと思う。

学内の一時的な隔離施設に枕とかけ布団を取りに行くと、例のおじさんから「Welcome back!!!」と大声で歓待を受ける。深夜に謝罪の電話を受けた際に、日本語では謝るときなんと言うのかと聞かれて「すみません」だと答えてしまったせいで会話する度に毎回謝られてしまう。

 

以上、出国前に「韓国語が話せないのに向こうでコロナにかかるのは本当に嫌だ」と8回くらい発言していたフラグを見事に回収してしまったものの、症状が軽かったのと、親切な方々に恵まれたおかげでなんとかしてもらえたという記録でした。韓国語は鋭意学習中です。